「Once Were Brothers」という映画が公開され、、日本でも少しはThe Band のことが話題になっているので、昔からのファンとしては嬉しく思います。



映画の方は残念ながらまだ観ていませんが、生存しているメンバーの一人、ロビー・ロバートソンが語っている内容が中心らしく昔出版されたレヴォン・ヘルムの本と比較すると興味深いと思います。

Music From Big Pink からセカンドアルバムThe Bandへの変化

ファーストアルバムのMusic From Big Pinkでは曲作りにリック・ダンコ、リチャード・マニュエルらがクレジットされていたのが、セカンドアルバムではほぼ全曲がロビー・ロバートソンの作品ということになっています。

これについてはレヴォン・ヘルムの本では

「レコード会社はグループにスターを作りたかったんだ。それでセカンドアルバムのすべての曲がロビー・ロバートソンのものになったんだ。
実際は他のメンバーも参加していたのに。セカンドアルバムのクレジットを見て驚いた。」

この辺りがThe Bandの特殊事情というか、普通のグループならヴォーカリストをスターにすればよいだけなのですが、レコード会社は3人のヴォーカリストではなくソングライターのロビー・ロバートソンをスターにすることを選んだのでしょう。

「このことから他のメンバーは創作意欲を失くしドラッグに溺れていった」あくまでもレヴォン・ヘルムの見解です。

3作目のStage Frightは前2作と比べるとトーンダウンしたという評価です。Stage Frightは他のメンバーの協力はなく、ロビー・ロバートソンが全て作詞作曲しており、この点も影響していると私は思っています。

4作目Cahootsではロビー・ロバートソンはマンネリ感を感じたのかアラン・ツーサンに全面的に協力を依頼します。

5作目ライブアルバムのRock of Ages を挟んで6作目ムーンドッグマチネーはカヴァーアルバムで勿論演奏は素晴らしいのですが創作的には行き詰まりが感じられます。

6作目久しぶりのオリジナルアルバムNorthern Light,Southern Crossではロビー・ロバートソンは獅子奮迅の活躍をし完成度の高いアルバムを造ります。結局これでロビー・ロバートソンはグループとしての存続に限界を感じ、ラストワルツへとつながっていった個人的には思っています。


The Band にはレヴォン・ヘルム、リック・ダンコ、リチャード・マニュエルという3人のヴォーカリストがいたのですが、個人的にはリチャード マニュエルが一番好きでした。

「Music from Big Pink」の一曲目「Tears of  Rage」が印象的なせいか、あるいは月並みですが「I Shall Be Released」に感動したためだったのか。

彼ら自身もグループのリードヴォーカルはリチャード・マニュエルだと言っています。

Whispering Pines



リチャード・マニュエルが後に自分のソロアルバムのタイトルにもしたWhispering Pines。
この美しい歌は彼の作曲によるものです。(作詞はロビー・ロバートソン)

哀愁漂うリチャード・マニュエルのファルセットヴォイス、静かに、そして最後にはドラマチックに響くガース・ハドソンの弾くオルガン。

レヴォン・ヘルムのコーラスも最後に登場し、エンデングを盛り上げていきます。


この歌は「孤独な男が自分から去っていた女性のことを思っている」という内容と解釈されていますが、私にはゴシックロマンというか、「幽霊となった男が自分の妻、あるいは恋人を見守っている歌」とも感じられて仕方ありません。

少しそういうニュアンスを入れて訳してみました。


If you find me in a gloom,
or catch me in a dream
Inside my lonely room,
there is no in between

もし(あなたが)暗闇で私の幻を見たり
それとも、荒涼とした部屋にいる
私の夢を見たら。
そこには二人を隔てるものはない。

Whispering pines
rising of the tide
If only one star shines
That's just enough to get inside

松原のささやき(ざわめき)
満潮
ただ星がひとつ輝いていれば、
何とかあなたの追憶に入っていけるんだ。

I will wait until it all goes 'round
With you in sight,
the lost are found

私(女性)はすべてが廻ってくるのを待っている。
やがてあなたが見えてくる、
失くした人が現れる。


Foghorn through the night
calling out to sea
Protect my only light,
'cause she once belonged to me

夜通し響く霧笛
海に呼びかける
「私のただひとつの灯りを守っておくれ
一度は彼女は私のものだったのだから」。

Let the waves rush in,
let the seagulls cry
For if I live again,
these hopes will never die

打ち寄せる波
カモメの鳴き声
「もし人生をやり直せるなら
今度は希望を失うことは決してしない」。

I(女性) can feel you standing there
But I don't see you anywhere

あなたがすぐ傍にいる気がする。
でもどこにいるのかわからない。


Standing by the well,
wishing for the rains
Reaching to the clouds,
for nothing else remains

(枯れた)井戸のそばに立って
雨乞いをしてる。
雲にまで手を伸ばしたい、
ほかには何も手だてがないのだから 。

Drifting in a daze,
when evening will be done
Try looking through a haze
At an empty house,
in the cold, cold sun

途方に暮れて彷徨い
夕暮れが終わろうとしている時、
見つめている、
冷たい太陽の光が降り注ぐ中、靄のかかった空っぽの家を。

I will wait until it all goes round
With you in sight,
the lost are found

私(女性)はすべてが廻ってくるのを待っている。
やがてあなたが見えてくる、
失くした人が現れる

解釈

リチャード・マニュエルの悲しい最期を知っている今となっては、この美しい曲と彼の歌声を聴くと複雑な気持ちになってしまいます。

曲はⅠ~Ⅲの3部構成になっています。
相変わらずロビー・ロバートソンの詞は意味が分からない所が多いのですが、巧みに韻を踏んでいます。(太字が韻を踏んでいると思われる単語です。)

Ⅰ 
「薄暗闇で見かける」とか「夢に出てくる」とか「松原のざわめき」やら何か
ゴシックロマンを感じさせます。

また、最後の章は何やら輪廻転生を思い起こさせます。

I will wait until it all goes 'round
With you in sight,
the lost are found




 For if I live again ,these hopes will never die.

この文章も何かゴシックロマンを感じさせます。「もし私が再び生きるなら、希望は死ぬことはない。」
つまり「私」は死んでいるともとれます。


Ⅲ 
Standing by the well,
wishing for the rains
Reaching for the clouds,
for nothing else remains

「私」のやるせない気持ちの比喩表現ではないかと思います。


さて、訳してみて何かしっくりこないのが各章の最後の文章です。

ⅠとⅢ

I will wait until it all goes round
With you in sight,
the lost are found

私はすべてが廻ってくるのを待っている。
やがてあなたが見えてくる、
失くした人が現れる。

私としてはこの ”I” はそれまでの男性(幽霊)ではなく、ここだけは女性ならすっきりすると思うのですが。

つまり”the lost”は当然亡くなった男性であり、(生きている)女性の独白ではないかと思うのですが。



I can feel you standing there
But I don't see you anywhere

あなたがすぐ傍にいる気がする。
でもどこにいるのかわからない。

ここも同様で(生きている)女性が亡くなった男性の魂の気配を感じると解釈すればすっきりします。


もっともそんな妙な解釈をせずに、単に「去っていった恋人が帰ってくるのを待っている」なら、 ”I” は男性でもいいと思いますが。(笑い)






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Posted by 安儀製餡所 at 22:40 音楽コメント(0)
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